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suikazukのうんぬん

日々考えるよしなしごとをのせていきたい。

マチネの終わりに

マチネの終わりに、を読みました。ネタバレあります。

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まず作者の教養の深さにびっくりしてしまいました。もはや物語そのものより、著者自身の背景が気になってしまうくらい。今まで平野さんの著作を読んだことがなかったのですが、他の本も読んでみたいと思いました。 芸術、特に映画・音楽・詩歌等への造詣の深さを感じます。付け焼刃ではない、本当に生身の筆者が知っているからできる登場人物のやりとり、説明であると感じました。また、随所に現れる絶妙な「例え」がとてもよかったです。例え方の語彙が膨大で、自分では想像つかない多方面からかゆいところに手が届くたとえをしています。中には私が理解しきれないものもありましたが、ググってみるとその的確さに驚きます。

「作品中の頭脳キャラ(天才・教養人)は作者の頭脳以上の能力になれない」とどこかで読んだことがありましたが、洋子さんは私の知っている教養ある人キャラの中でも一番の教養でした。

物語の内容としては、こういってしまうと陳腐ですが、アラフォーの男女の燃え上がる恋というところです。作品を読み進めると、こんなに誰かを求めることがあるだろうかというくらい、まっすぐで透明感があり疑いようのない愛を向け合っています。楽しい会話と、楽しすぎるがあまり不安になってしまう気持ちなんかが繰り返し描写され、本当に好きなんだと感じました。物語の透明感と裏腹に、イラク問題、難民問題、原爆と原発なども主要なテーマとなり、造詣の深い筆者の展開に考えさせられました。

蒔野の印象的なセリフがあります。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で感じやすいものじゃないですか?」

そしてこの、「現在・将来の心持ちで過去は変えられる/変わっていく」という信念は、洋子の庭の石から始まり、その夜の出会い、イラクでの戦争体験、洋子とお父さんの絆、デュオを組んだ武石、そして彼と彼女の物語まで発展するこの作品のテーマとなります。構成も見事で、このセリフに向けて収束していきました。

最後のシーンも読み終わった後何時間も妄想してしまう、すばらしい読後感でした。

読書の初心者には少し難しい本でしたし、全てを受け取れた気はしないのですが、もっと読書して、もっと教養を付けて、40・50代のころにもう一度読んでみたいと思える傑作でした。この本を読んだ「過去」はどう変わって、その「将来」に受け入れているのでしょうか。